「私は心でも体でもない」——シャンカラチャーリヤの教えにふれる

ヒンドゥーの伝統やインド哲学の話になると、必ず名前が挙がる偉大な存在がいます。それが、アディ・シャンカラチャーリヤ(初代シャンカラチャーリヤ)です。

インドでは毎年、ウェイシャカ月(4〜5月ごろ)の新月から満月に向かう5日目(シュックラ・パンチャミ)に、「シャンカラチャーリヤ・ジャヤンティ(生誕祭)」が祝われます。

8世紀、南インド・ケーララ州に生まれたこの若き哲学者は、わずか32年の人生で、後のインド思想に大きな影響を与える教えを残しました。

この記事では、「シャンカラチャーリヤってどんな人だったのかな?」「どんなことを説いていたんだろう?」と、私自身が学びながら感じたことをもとに、現代の私たちの心にも響くようなエッセンスをやさしく紹介していきたいと思います。

目次

シャンカラチャーリヤってどんな人?

シャンカラチャーリヤ(アディ・シャンカラ)は、788年ごろ南インド・カラディに生まれました。幼いころから聡明で、8歳頃には4つのヴェーダをすべて記憶していたと伝えられています。

彼は幼少期に母の許しを得て出家し、自ら師匠(グルジ)ゴーヴィンダパダのもとへ向かいます。そのとき師匠から、「お前は誰か?」と問われたシャンカラチャーリヤは、こう答えました。

私は心でも体でもない。

私は幸福でも悲しみでもなく、男でも女でもない。

私はただの純粋な存在(アートマン)であり、肉体や精神とも異なる——。

この答えが、彼の生涯のテーマを表しています。

シャンカラチャーリヤが伝えた教えとは?

シャンカラチャーリヤが後世に残した最大の功績は、アドヴァイタ・ヴェーダーンタ(非二元論)という思想の体系化です。これは、世界のすべての存在が本質的には一つである、という教えです。

自分と宇宙(ブラフマン)は別物ではなく、本質的には同じものである
という考え方は、ウパニシャッド(ヴェーダ文献の終盤にある部分)にそのルーツがあり、シャンカラチャーリヤはそれに対して明確な解釈と注釈を加えたことで、多くの人に理解されるようになりました。

教えを残す仕組みをつくった人

シャンカラチャーリヤは、ただ思想を語るだけでなく、それを次の世代へ伝える仕組みも作りました。

インド各地の4つの方角、東西南北に4つの僧院を設立し、それぞれに「シャンカラチャーリヤ」の称号を継承する師を置いたのです。

今でもこの伝統は受け継がれており、各地に「現代のシャンカラチャーリヤ」が存在しています。まるで、ダライ・ラマがチベット仏教を導くように、シャンカラチャーリヤはヒンドゥーの精神的な柱とされています。

宇宙のしくみと、わたしのしくみ

シャンカラチャーリヤが解説したヴェーダーンタの教えと、私たちが扱うインド占星術(ジョーティッシュ)は、一見するとまったく別のアプローチのように見えるかもしれません。

けれど、どちらも「本当の自分とは何か?」という問いに向き合い、モクシャ(解脱)へと導くための道しるべという点で、深くつながっています。

この共通点の背景には、両方が「ヴェーダ(聖典)」を大本にしているという事実があります。

ヴェーダーンタは、ヴェーダの終わりに位置するウパニシャッドをもとにした哲学であり、ジョーティッシュもまた、ヴェーダを補助する学問「ヴェーダーンガ」のひとつとして古くから伝えられてきました。

つまり、出発点が同じだからこそ、目指すゴールも同じ
ヴェーダーンタでは、「自分の本質を知ること」が解脱への道とされ、ジョーティッシュもまた、「生まれ持ったカルマや傾向を読み解き、自分自身を深く理解すること」を目的としています。

どちらも、自分を知ることで人生の苦しみから自由になるための手段
アプローチは違っていても、その奥に流れている願いは、とても似ているのです。

おわりに

「私は誰か?」という問いは、現代のわたしたちにとっても、とても大切なテーマです。日々の生活に追われていると、自分が本当に大事にしたいことや、本当の自分を見失いがちになります。

シャンカラチャーリヤの教えは、そうした私たちにそっと問いかけてくれます。「心でも体でもない、純粋な“何か”としてのあなたは、いま何を選びますか?」と。そしてインド占星術もまた、その問いに向き合うための、もうひとつの鏡のような存在かもしれません。

難しい話ではなく、ほんの少し立ち止まる時間をくれる言葉たち。もし心に残るものがあったなら、あなたの中でも何かが静かに動き始めているのかもしれません。

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この記事を書いた人

2000年からインド占星術を学び、鑑定を行っています。人生には流れやタイミングがあり、それを知ることで迷いや不安が軽くなります。仕事や人間関係、人生の転機に、星がどんなメッセージを伝えているのか、一緒に読み解いてみませんか?

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